麦粒腫(めばちこ・ものもらい)と霰粒腫の症状・原因、治療とケア

■略歴
東北大学医学部 卒業
東北大学医学部眼科学教室
三栄会ツカザキ病院
2022年4月~ 現職

■資格
日本眼科学会認定 眼科専門医
高濃度ビタミンC点滴療法認定医
医学博士

■専門分野
白内障手術
眼形成手術
緑内障手術

■所属学会
日本眼科学会(JOS)
日本眼科手術学会(JSOS)
日本緑内障学会(JGS)
点滴療法研究会(JCIT)

まぶたの腫れや腫瘤(しゅりゅう)は、「めばちこ」「ものもらい」「めいぼ」などと呼ばれています。これらは医学的に麦粒腫(ばくりゅうしゅ)や霰粒腫(さんりゅうしゅ)と呼ばれます。誰もが一度は経験がある、もしくは何度も繰り返してしまう眼科疾患の一つと言えます。この記事では、眼科医である医療法人Tri-NEXT理事長ASUCA EYE CLINIC院長野口明日香先生の監修の下、麦粒腫や霰粒腫の原因や違いから治療、予防やスキンケアについて解説します。

身近な麦粒腫

麦粒腫とは?

麦粒腫は一般的に、「ものもらい」や「めいぼ」、「めばちこ」などと呼ばれています。
眼瞼(まぶた)の裏側や睫毛(まつげ)の根本に黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などの細菌が感染することで起こる急性可能性炎症です。
汗腺やまつげの毛根に感染した場合は外麦粒腫、まぶたの上下にある油分を分泌するマイボーム腺に感染した場合は、内麦粒腫と呼びます。

霰粒腫とは?

霰粒腫は、睫毛の根本にある脂を出す腺(マイボーム腺)の出口が詰まり、慢性的な炎症が生じることでかたく可能性のあるしこりができる非感染性疾患です。 医学的には麦粒腫と霰粒腫は別物ですが、炎症を伴った霰粒腫では麦粒腫と似た症状になり、区別が難しいこともあります。

麦粒腫と霰粒腫の症状と違い

麦粒腫の症状

麦粒腫の症状はまばたきをした際の目の痛みやゴロゴロする異物感から始まります。
眼瞼が赤く腫れ、触れると痛みや痒みが生じます。炎症が強いと、赤み・腫れ・痛みが強くなり眼脂(目ヤニ)や流涙(涙)、眩しさもあられます。表面に膿を持った点ができ、膿が溜まって腫れが大きくなったり、ズキズキとした強い痛みをともなうことがあります。
化膿が進むと、数日で自然に破れて膿が出て、症状は回復に向かいます。
なお、内麦粒腫では、ひどい場合は発熱や悪寒をともなうことがあり自然回復することが少なく再発リスクが高いという特徴があります。

霰粒腫の症状

霰粒腫では、眼瞼の腫れ、軽い痛み、刺激感などの初期症状があります。
その後、これらの症状は数日で消えて、まぶたに丸くて痛みのない腫れが残ります。
そして、腫れは、最初の1週間程度で徐々に大きくなります。
ひどい場合には、腫れが大きくなり続けて眼球を圧迫することもあります。
皮膚の色が赤くなり、外見的にも明らかに違和感を感じることがあります。そのまま、更に悪化すると、風船が弾けるように自壊して、中の膿が出てくることがあります。
また、そのまま、自壊はしないが、悪化した状態を長期にわたって放置しておくと、まぶたの中で強く癒着し、エクボになったり、二重のLINEが乱れたり、まぶたの変形に至ることもあります。

<麦粒腫と霰粒腫の特徴的な症状の違い>

麦粒腫 霰粒腫
まぶたが赤く腫れる
まぶたが痛む
目が充血する、目やにが出る
自然に治ることがある
まぶたが腫れる
目に異物感がある
まぶたが痛むが消える
自然には治らずしこりが残こりやすい

麦粒腫や霰粒腫の原因を深堀すると?

麦粒腫の原因

麦粒腫の原因は、先ほども説明したとおり、主に黄色ブドウ球菌による細菌感染です。
人の皮膚表面には、黄色ブドウ球菌ほか表皮ブドウ球菌などの皮膚常在菌が棲みついています。また、のどや鼻、手指、毛髪、腸管などにも分布していますが、黄色ブドウ球菌は感染力が弱いため、感染するリスクは大きくありません。
しかし、目のけがやストレス、疲労、病気などによって、免疫力が低下していると感染のリスクが高くなります。
また、夏は高温多湿で細菌が繁殖しやすいため、感染のリスクが高くなります。
このように、健康状態の悪化や季節の影響などが加わって、黄色ブドウ球菌などに感染すると麦粒腫が発症しやすくなります。

麦粒腫の原因

霰粒腫の原因

霰粒腫の原因は、マイボーム腺の詰まりであることはお伝えしました。
その原因としては、栄養状態やホルモンバランスが悪くて脂成分が液状からグリース状になって詰まってしまうことや、ストレスほか何らかの原因でマイボーム腺の開口部付近に炎症を起こしてしまうことなどが考えられています。体質的に、マイボム腺から出てくる脂が硬かったり、固形であること、などにより詰まりやすい方がいらっしゃいます。また、食事も大きく影響すると言われています。

麦粒腫と霰粒腫の治療の実際

麦粒腫と霰粒腫は、治療を受けなくても自然に症状が落ち着く場合もあります。
また、市販薬でも治ることもあります。
しかし、セルフケアやセルフメディケーションでは、悪化するリスクがあります。
また、涙嚢炎、眼窩蜂窩織炎、悪性腫瘍など他の病気が潜んでいる可能性もあります。
いずれにしても、早期の状態であれば、眼科点眼薬で改善しやすいですが、放置した状態では点眼では改善せず、切開排膿などが必要となることもあります。
そのため、眼科を受診し、適切な診断・治療を受けることをおすすめします。
また、霰粒腫は繰り返し発症したり、別の場所の瞼にできる方もいます。そのような再発傾向にある方はIPL照射による李朝により、その発症率を下げることができます。
IPLやマッサージなどを駆使することにより、症状が軽ければ切開せずに加療することも可能な場合があります。

麦粒腫の治療

麦粒腫の治療では、主な原因菌である黄色ブドウ球菌に対して抗菌力を発揮する抗菌点眼薬や抗菌眼軟膏を使います。
症状が重い場合は、これらに加えて抗菌内服薬を使うことがあります。また、痛みが強いときは冷やすことも良い方法です。
多くの場合、この治療で約1~2週間で完治します。

しかし、症状が重い場合は、膿を切開するための手術が必要なケースがあります。
ここでは、麦粒腫切開術の症例をご紹介します。

【症例1】麦粒腫切開術
麦粒腫切開術症例1 麦粒腫切開術症例2 麦粒腫切開術症例3
上眼まぶたにできた麦粒腫。
まぶたの裏側に膿がたまり、強い痛みを生じています。
小さく切開して膿を排出して点眼と内服で治療します。
(麦粒腫切開術)
4日後。腫れと痛みは軽快。
[提供:ASUCA EYE CLINIC]

霰粒腫の治療

霰粒腫は、無菌性の炎症が主体です。そのため、抗炎症薬の点眼薬や眼軟膏を使って治療します。霰粒腫は、まぶたの裏にしこりが残っている場合、完治するまでに数ヶ月かかることもあります。
治療を行っても改善が乏しい症例や膿がたまって腫れが強い場合には、切開して膿を出すために手術が必要な場合があります。
こじらせてしまうと、しこりが残ってしまうことがあります。
残った腫瘤が大きな場合はまぶたを切開して切除します。

【症例2】霰粒腫摘出術
霰粒腫摘出術症例1 霰粒腫摘出術症例2 霰粒腫摘出術症例3
上上眼まぶたにできた霰粒腫。
痛みはないが、まぶたの裏側に固い腫瘤ができています。
メスで切開して腫瘤を摘出。
(霰粒腫摘出術)
1週間後。腫瘤と腫れは消失。
【症例3】霰粒腫穿刺と眼まぶたマッサージでの治療
霰粒腫穿刺と眼まぶたマッサージ症例1 霰粒腫穿刺と眼まぶたマッサージ症例2
小さな霰粒腫。
あまり大きくない場合は切らずに針で突いて
眼まぶたのマッサージと点眼治療で経過を見ます。
1カ月後。 腫瘤は消失。
【症例4】まぶた板切除術(巨大霰粒腫摘出)
まぶた板切除術(巨大霰粒腫摘出)症例1 まぶた板切除術(巨大霰粒腫摘出)症例2 まぶた板切除術(巨大霰粒腫摘出)症例3
下眼まぶたにできた霰粒腫。
皮膚面に固い腫瘤ができています。
こういった大きなものでは内側と皮膚面の両方から切開します。
3週間後。
皮膚面に突出したものでは切開してから目立たなくなるまで、少し時間がかかります。
2カ月後。 腫瘤と腫れ・発赤は軽快。
[提供:ASUCA EYE CLINIC]

また、マイボーム腺の出口で詰まりかけている脂成分を溶かす治療である温庵法(目をあたためる)や、IPL(光)治療によってマイボーム腺機能の改善を促すことも効果的です。
炎症がひどい場合は、ステロイドの注射を選択することもあります。
なお、霰粒腫に感染症を合併してしまうと、化膿性霰粒腫と呼ばれる状態になり、痛みや赤みを生じる原因となります。
化膿性霰粒腫が疑わしい場合には、細菌感染に対して抗菌薬の点眼または内服で治療する場合があります。

麦粒腫や霰粒腫にかかっている場合のメイクなどで気をつけること

幸いにも麦粒腫や霰粒腫は、ほかの人にうつる病気ではありません。
しかし、早期の治癒のためには、麦粒腫や霰粒腫の治療中は、まぶたに刺激を与えず清潔に保つことが大切です。

患部に触れない

まずは、患部を不必要に触らないように意識しましょう。
しかし、うっかり触ってしまうこともあるので、その場合に備えて手を清潔に保つことが大切です。

コンタクトレンズは使わない

治療中は、コンタクトレンズの汚れが症状の悪化を招く恐れがあるので、装用を控えるようにしましょう。

まつ毛のシャンプーを使う

まつ毛のシャンプーを使用することで、マイボーム腺が詰まるのを防ぐことが可能です。
眼科でも扱っているところもあるので、相談してみましょう。

アイメイクは控える

アイシャドウなどのアイメイクをはじめ、マスカラやアイライナー、つけまつ毛、まつ毛のりなど、目元に化学物質が触れると刺激になるので控えましょう。
また、ファンデーションで使用するパフやスポンジには雑菌が繁殖しやすいことがわかっています。
ファンデーションも目元に触れないように注意しましょう。
メイク道具は清潔を保ち、アイメイクで睫毛根(まつげの生え際)や粘膜を塞がない、メイクを丁寧に落とすなど、日常の気遣いも大切です。

<参考記事>

麦粒腫・霰粒腫を予防するスキンケアや生活習慣

アイメイクに注意

まつ毛の生え際までアイメイクすると、マイボーム腺の詰まりの原因となるリスクがあります。
アイメイクは、マイボーム腺にかからないように気を付けましょう。
また、アイメイクは、毎日、きちんと落としてから眠りましょう。

ホットタオルやホットアイマスクなどで目を温める

ホットタオルの後、優しく目元のマッサージを行うこともおすすめです。
目を閉じた状態でまつ毛の生え際に指先をそろえて当て、「の」の字を書くように優しく押さえましょう。
マイボーム腺からの油分の分泌がよくなり、涙の蒸発を抑えることができるのでドライアイの予防効果も期待できます。

目元のマッサージ

まつ毛のシャンプーを使用することで、マイボーム腺が詰まるのを防ぐことが可能です。
眼科でも扱っているところもあるので、相談してみましょう。

メイク用品やタオルを清潔に保つ

メイク用品のパフ・スポンジやブラシは菌が付きやすいので、こまめに洗うことが大切です。また、適度な期間で新品に交換しましょう。
また、顔や手をふくタオルを清潔に保ちましょう。
水分を含んだタオルは雑菌が繁殖しやすくなるので、タオルの使用後はこまめに洗濯して清潔な状態にしましょう。

普段は目元やまぶたの保湿ケアも大切

普段から、目元やまぶたを化粧水や目元美容液などでしっかり保湿することも大切です。
保湿効果が高く、刺激の少ないスキンケアアイテムやエイジングケア化粧品を使いましょう。

前髪は目にかからないようにする

前髪が目にかかると、まぶたにもダメージを与えます。
前髪をカットしたり、前髪を上げる髪型にするなどの工夫で、目にダメージを与えないようにしましょう。

湯船につかる

入浴の際は、シャワーだけで済まさずに湯船に浸かりましょう。
適度な時間、湯船に浸かって体温を高めることで、マイボーム腺の詰まりが予防できます。

正しい生活習慣を持つ

ストレスや疲れも麦粒腫や霰粒腫のリスクを高めます。
質の高い睡眠をしっかり取ることも予防に大切です。
また、過度な飲酒や刺激物(辛いもの、甘いもの)の摂取も、健康状態を悪化させたり免疫低下の原因になります。
麦粒腫や霰粒腫の予防には、ほかの病気の予防と同じくバランスの良い食生活が大切です。
また、適度な運動も心がけましょう。

まぶたが痛い場合や腫れたら早めに眼科を受診しよう

まぶたの痛みが出たり腫れる原因として、比較的頻度が高いのは麦粒腫と霰粒腫です。
これらは自然に治ることもありますし、重症化しなければ治療に難渋することも少ないありふれた病気です。
しかし、まぶたの痛みや腫れは、結膜炎や角膜炎ほか、別の目の病気の場合もあります。
特に、アレルギーによるまぶたの腫れや全身の感染症が原因となって強い痛みが生じる眼窩蜂窩織炎などは、早く治療を行う必要があります。
また、ご高齢の方で霰粒腫がなかなか改善しない場合や徐々に大きくなる場合には、脂腺癌と呼ばれる悪性のものが隠れている可能性もあります。
目が腫れたり痛みがある場合は、早めに眼科を受診することで早期の目の病気の発見や改善につながります。

麦粒腫と霰粒腫に関するよくある質問

Q1. 麦粒腫と霰粒腫はどのタイミングで受診すればよいですか?

まぶた痛みや腫れを感じて、1~2日で症状が改善しない場合は、眼科を受診しましょう。早めに治療を開始することが、重症化を防ぎ早期治癒のポイントです。

Q2.麦粒腫と霰粒腫が治っても跡が残ることはありますか?

麦粒腫と霰粒腫は、早期に治療できた場合は跡が残る可能性は低いです。
しかし、重症の場合や治療、処置の方法によっては跡が残る可能性もあります。

Q3.霰粒腫になる人はドライアイになりやすいのは本当ですか?

霰粒腫をくり返す方はマイボーム腺へのダメージが大きくなります。
何度も再発を繰り返すと、マイボーム腺機能不全となりドライアイの原因になる可能性があるともいわれています。涙はほとんどが水分ですが、1%程度油分が含まれています。マイボーム腺から油分が分泌されず涙の成分のバランスが崩れることがドライアイの一因になるのです。

<参考記事>

Q4.霰粒腫はIPL(光)治療で治せますか?

IPL治療によって、霰粒腫の原因であるマイボーム腺の詰まりを解消させて脂質の分泌を正常化することが期待できます。
そのため、一部の眼科では霰粒腫の改善にIPL治療を行うことがあります。
ただし、IPL治療は自由診療のため、まずは保険診療である点眼薬や軟膏などの治療を行うことが基本です。IPL治療は、手術に比べ負担が少ないのが特徴で、再発予防にも効果的なため、薬で改善が不十分な場合の選択肢の一つです。

Q5.麦粒腫や霰粒腫は皮膚科で治療できませんか?

麦粒腫や霰粒腫は、皮膚科で治療することも可能です。
しかし、まぶたの腫れや痛みがある場合は、ほかの目の病気が潜んでいることがあるので、眼科を受診することをおすすめします。

まとめ

眼科医監修の下、めばちこやものもらい、つまり、麦粒腫や霰粒腫の原因や違いから治療、予防やスキンケアまで、幅広く解説しました。
また、ASUCA EYE CLINIC院長野口明日香先生に手術の症例をご提供いただきました。
めばちこやものもらいは、多くの方が一度はかかったことがあるまぶたの病気で、それほど怖いといった印象はないと思います。
しかし、重症化すると手術が必要になることもあります。
そのため、早期に眼科を受診することをおすすめします。
また、目元を不潔な状態にしていたり、健康状態が良くないと再発するリスクもあります。
目周りのスキンケアやメイクなどにも注意し、予防を心がけましょう。

  • どんなことでもお気軽にご相談ください!

    元エステティシャンや、医学・薬学に詳しいスタッフがいます。