腹圧性尿失禁による尿漏れは皮膚トラブルにも!骨盤底筋体操で予防・改善

■経歴
2003年 京都府 洛南高等学校 卒業
2012年 金沢医科大学 医学部医学科 卒業
2012年 金沢医科大学 氷見市民病院 初期臨床研修医
2014年 金沢医科大学 泌尿器科学 助教
2019年 金沢医科大学 大学院 博士課程修了
2021年 誠美会 池田クリニック(非常勤)
2021年 なかざわ腎泌尿器科クリニック 院長

■資格
金沢医科大学 医学博士
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医
緩和ケア研修修了医
身体障害者福祉法指定医
難病指定医

■所属学会
日本泌尿器科学会
日本尿路結石症学会 評議員
日本排尿機能学会
日本泌尿器内視鏡学会
日本癌治療学会
性感染症学会
日本Men's Health医学会
日本オフィスウロロジー医会

40代以上の女性の40%以上が尿漏れの経験があると言われています。
咳をする、くしゃみをする、笑う、走る、テニスやゴルフなどのスポーツをする、重い物を持ち上げる、坂道や階段を昇り降りする、こうした強い腹圧がかかるような動作をした時に尿が漏れてしまうことがあります。
その場合、「腹圧性尿失禁(ふくあつせいにょうしっきん)」の可能性があります。

尿漏れは、それ自体が気になりますし、デリケートゾーン(陰部)が痛くなったり、肌荒れ、かぶれ、かゆみが起こることもあります。

この記事では、40代以上に多い腹圧性尿失禁の予防法や治療法などをご紹介します。
尿漏れを防ぐことで、同時にデリケートゾーンの肌荒れやかゆみなども予防できるので、ぜひ、チェックしてくださいね。

なお、尿漏れを起こす病気には、腹圧性尿失禁以外にも切迫性尿失禁や混合性尿失禁もありますので、簡単にふれますが、主に腹圧性尿失禁による尿漏れについて取り上げます。

腹圧性尿失禁を理解しよう

1)腹圧性尿失禁の症状

腹圧性尿失禁とは、普段は漏れないのですが、お腹に力が入ったときに起きる尿漏れのことを言います。
尿が溜まっているときにチョロッと尿が漏れるのが特徴です

腹圧性尿失禁は女性特有の症状です。
男性では前立腺の手術後を除けば腹圧性尿失禁が起きることはまずありません。

2)腹圧性尿失禁の原因

「骨盤底筋(こつばんていきん)」という膀胱と尿道を支える筋肉があります。
女性の正常な体では、お腹に強い力(腹圧)がかかった場合、骨盤底筋がはたらき、「膀胱と尿道を支えることで尿道が締まります。
そのため、尿が漏れるのを防ぐことができるのです。

しかし、加齢による影響で骨盤底筋が弱くなったり、出産ほか何らかの原因で痛むと尿道をうまく締められなくなります。

その結果、尿漏れを起こしてしまう病気が、腹圧性尿失禁です。

また、もともと女性の尿道は3~4cmと短い上に、真っすぐな形状であることも腹圧性尿失禁のリスクを高めています。

3)その他の尿漏れを起こす病気

①切迫性尿失禁

切迫性尿失禁は、急に強い尿意が起こり、我慢できずに尿が漏れてしまう症状です。
膀胱の神経過敏による過活動膀胱によって、膀胱が無意識に収縮し膀胱内の圧が上昇することが原因です。

②混合性尿失禁

混合性尿失禁は、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が組み合わさった尿漏れのことです。

尿漏れは皮膚トラブルの原因にもなる

尿漏れによる皮膚トラブルが気になる女性

尿漏れは、それが原因となって肌のトラブルにつながることがあります。

例えば、尿漏れが起こってしまうと、尿漏れパッドや生理用ナプキンなどを常時使用していることで、擦れてしまったり、蒸れることがあります。
その結果、皮膚の炎症は起こります。

また、尿に含まれる老廃物などが肌の刺激になったり、細菌や真菌などが繁殖して肌トラブルにつながることもあります。

尿漏れパッド、ナプキン、おむつは、構造的に漏れを防ぐようになっています。そのため、デリケートゾーンやその周囲は、尿や汗が入り混じって高温多湿な環境となります。
高温多湿は、細菌や真菌が繁殖しやすい環境で、肌がふやけてしまったり、感染を起こしやすくなるのです。
その結果、「皮膚カンジダ症」や「白癬菌感染症」のリスクが高くなったり、毛穴に汚れなどがたまって、「毛嚢炎」を起こすこともあります。

さらに、尿漏れが気になると、汚れをきれいに落とそうとデリケートゾーンを洗う機会が増えます。過度に洗う回数が増えたり、擦る力が強いと肌にダメージを与えます。
これもデリケートゾーンの肌トラブルにつながる可能性があります。

このように尿漏れは、それ自体不快であることに加え、汚れや摩擦、菌の繁殖の原因となって、デリケートゾーンの肌トラブルや感染症のリスクを高めるのです。

だから、尿失禁そのものの予防に加えてデリケートゾーンの肌トラブル予防のためにも、早めの対策が大切です。

骨盤底筋体操は尿漏れの有効な予防・治療法

尿漏れを専門的に治療する診療科は泌尿器科です。
ここでは、当院でも行っている骨盤底筋体操をご紹介します。

1)骨盤底筋体操で尿漏れを予防しよう

尿漏れ、つまり腹圧性尿失禁の原因が、骨盤底筋の筋力の低下であることをお伝えしました。
だから、尿漏れを防ぐには、弱った骨盤底筋を鍛え、筋力をつけることで、臓器が下がるのを防げばよいのです。
また、肛門や腟を締める訓練をすることで、尿道を締めることができます。その結果、尿漏れの症状を改善できる可能性があります。
このためにできることが、骨盤底筋体操です。

骨盤底筋体操は、腹圧性尿失禁の軽症例に特に有効です。

また、もう1つの尿漏れの原因である過活動膀胱の予防や症状の改善にも効果があります。
過活動膀胱とは、急に尿意を催して何回もトイレに行ったり、トイレに間に合わず尿を漏らしてしまったりする病気の事です。

尿漏れを予防したり、改善することでデリケートゾーンの肌トラブルの予防につながるので、まだ症状が無くても、30代以上の女性にはおすすめです。

2)骨盤底筋体操の方法

尿道・肛門・腟をきゅっと締めたり、緩めたりし、これを2~3回繰り返します。これによって骨盤底筋が鍛えられます。
次は、ゆっくりぎゅうっと締め、3秒間ほど静止します。
その後、ゆっくり緩めます。
これを2~3回くり返します。
引き締める時間を少しずつ延ばしていきます。

骨盤体操のイラスト1

1回5分間程度から始めて、10分~20分まで、だんだん増やしていきましょう。
基本姿勢でできるようになったら、いろいろな姿勢で上記の体操をやってみましょう。
慣れていくと、通勤途中や入浴中や家事をしながらでもできるようになるでしょう。

骨盤底筋体操 <応用形1>

床にひざをつき、ひじをクッションの上にのせ頭を支える。

骨盤体操のイラスト2

骨盤底筋体操 <応用形2>

足を肩幅に開いて立ち、手は机の上に乗せる。

骨盤体操のイラスト3

骨盤底筋体操 <応用形3>

足を肩幅に開いて椅子に座り、足の裏の全面を床につける。

骨盤体操のイラスト4

[骨盤体操のイラスト提供:なかざわ腎泌尿器科クリニック様]

腹圧性尿失禁の他の治療法

腹圧性尿失禁は、骨盤底筋体操以外にも薬による治療や電気刺激療法(干渉低周波療法)、磁気刺激療法などの保存的治療法があります。
薬は、尿道を引き締める働きがあるβ受容体刺激薬であるクレンブテロール塩酸塩(スピロペント®)などを用います。また、スピロペント®内服で尿道括約筋の収縮力が上がり症状が改善する可能性があります。

また、これらの存的治療で症状が改善しない場合、にうまく反応しない場合には、メッシュテープを尿道の下に通してサポートする手術などを検討することになります。

尿漏れによるデリケートゾーンのかゆみの予防や治療

尿漏れによるかゆみの治療方法を説明する医師

1)尿漏れによるデリケートゾーンのかゆみの予防

尿漏れによるデリケートゾーンの肌トラブルを防ぐためにキーワードは「清潔と優しさの両立」です。
まず、下着を替えられる自宅にいる時などは、肌に直接当たるのはやわらかい布の下着を使いましょう。
もし、尿漏れで下着がぬれたら、すぐに清潔なものに交換しましょう。

入浴時には、肌に優しい洗浄剤でやさしく洗う事が大切です。ゴシゴシ擦ったり、刺激の強い洗浄剤を使うことは避けましょう。

また、尿漏れパッドやナプキンを使っているなら、こまめに交換しましょう。

2) 尿漏れによるデリケートゾーンのかゆみの治療

デリケートゾーンにかゆみや発疹、不快感などがある場合は、自己判断せずに泌尿器科や皮膚科を受診しましょう。

とくに次のような症状がある場合は、すぐに受診することをおすすめします。

●かゆみが強く激しい、範囲が広い
●水疱や潰瘍がある
●おりものに変化がある(量が増える、ヨーグルト状のおりものがみられる、悪臭のあるおりものがみられるなど)
●市販薬(OTC医薬品)を使ってもかゆみが治まらない

治療には、原因や症状に応じて、かゆみを抑える薬、炎症を抑える薬、菌を抑える薬などが使われます。

まとめ

腹圧性尿失禁を中心に尿漏れの原因や症状、予防や治療法について紹介しました。また、尿漏れが原因で起こる肌トラブルについても紹介しました。
尿漏れは40代以上の女性にとっては、特別な症状ではありません。
もし症状が気になる場合は、早めに泌尿器科に相談することがおすすめです。
一方、骨盤底筋体操などで予防や改善が可能です。
30代など若くて症状がない場合でも、骨盤底筋体操で予防することもおすすめです。
大きな負荷もなく自宅でも行うことができるので、ぜひ、取り入れてみてはいかがでしょうか。

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